コラム

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「経営戦略について少し」

[ 掲載日 ]2012/04/25

[ 掲載日 ]2012/04/25

  • 司馬遼太郎の「花神」に、大村益次郎が「戦略と戦術」について語る場面があります。 幕末の戊辰戦争でひときわ異彩を放つ、一介の医者であった村田蔵六(大村益次郎)は、その磨き上げた技術を倒幕につぎ込んで行くのですが、 彼は、「戦略(ストラテギー)と戦術(タクチーキ)を理解しない者は、ついには国を過つ」と最後の講義で述べたと小説では言っています。 それから70年ほどして、本当に日本帝国陸海軍は国を誤った訳ですが。
  • ビジネスはいうまでもなく競争社会ですから、恐ろしげな「戦略」という戦争の用語を使います。 殺戮を含まない戦いですが、戦う以上は勝たなくてはなりません。 そのため、どうしたらビジネスという競争に勝てるのかを一生懸命考えることになります。 そういった中で、戦いに勝つ考え方を戦争から取り入れたのが「戦略」や「戦術」なのですが、これが非常に分かりにくい。 今回はこの「経営戦略」に使われる「戦略」や「戦術」について少し考えてみましょう。
  • 戦争は様々な場で行われます。もちろんビジネスも。 例えば「戦争は外交の一手段である」という言葉もあり、外交で「戦わずして勝つ」というケースもあります。 戦争の神様である孫子は「戦わずして勝つのが上策である」といってます。
    そして「戦えば必ず勝つ」という状態や環境を作ることが「戦略」であるとも言います。 別の言葉でいえば「勝利を構造化する」と,私は言いたいのです。
  • 「構造化」というのは、とりもなおさず「システム化する」ということに似ています。 「闘わなくては分からない」という状態は、構造化できていない訳です。
    この場合、局地戦、つまりビジネスでいえば営業マンや製造現場で汗を流して真剣に競争相手と闘わなければ、 勝利が転がり込むかどうかは分からない状態だということです。 この「局地戦」で工夫されるのが「戦術」です。
  • こういった現場での尊い活動を、低くみたり甘くみることは厳に慎まねばならないと思うのですが、 「勝利の構造化」に失敗したり競争相手にしてやられた場合は、局地戦でいくら頑張っても成果は得られないという、 厳しい現実があることも、知っておかねばなりません。 その意味では、経営者や企画などを担当するマネジメントは、大きな責任を担っています。
  • 実は、「戦略」には絵に書いたような競争ルールをひっくり返したり、 パラダイム(競争の前提となっている条件や環境・考え方等)を180°変えて相手をタタキつぶしたりする派手なものだけではない側面があるのです。 例えばスーパーのイトーヨーカ堂では「業務改革」という体質改善を継続的に行っていましたが、 その中身は「誰でもが思いつくような簡単なモノだが、誰もが完全にはできない難しい身近なテーマ」を、 現場で積み重ねるという地道なものでした。戦略には「戦略マップ」という、施策の効果を因果関係で表して、 最終ゴールまで辿り着く好循環の仮説を作る手法がありますが、それぞれの施策は現場で行われるものです。 つまりは現場での地道な活動や施策の積み重ねが全体の「勝利の構造化」に繋がっているのです。 このことを忘れて、一生懸命「絵に描いた餅」を書き続ける参謀は、結局「戦略」の達成ができないのです。
  • 「経営戦略」を勉強しようとしている若い人々には、全体の絵を書く訓練と、 それを実現するための現場の努力が如何に大切かを知って頂きたいと思います。 その意味では、MBAで勉強することと現場での経験の積み重ねは、ふたつとも大事だといえます。 今自分のしていることが、将来どう繋がっていくのか、積み重ねが必要だということは確かな事実です。