近年、日本に流れ込んできたタレントマネジメント・パッケージの機能を見てみると、「優秀人材」については囲い込んだり、選抜したり、いわゆる「集団的」な労務管理をメインにする日本の人事管理とは少し異なることに気がつきます。
優秀であろうとなかろうと、少なくとも課長さんあたりまではできるだけ平等に引っ張って、誰もが社長になれる、みたいな夢を持たせて管理していく日本のやり方は、これまでの経済環境では許されたかもしれませんが、グローバル化が進み、国内では少子高齢化が進む現況では、時代に合わなくなりました。
日本でも実際は「実力主義」であり、年功序列から来る諸症状に苦しんでいた人事部も気がつき始めていました。最大の問題は、リーダーとして責任を持って意思決定をし、修羅場をくぐっていくという最も重要な試練を、若いうちから経験させて鍛えていくという環境ができなかったことです。これはという人材が、実際に役員さんになり会社を牽引していくトップまで上りつめられるかどうかは、きわめて偶然か幸運によるものであったといって良いかもしれません。現在でも、課長になるのが40歳では、それからせいぜい10年程度しか経営者となるための重要な経験を積む時間が残されていません。グローバル世界では、30台そこそこの若い溌剌とした優秀人材が、トップとなるための修羅場に放り出されて、鍛え上げられているのです。
御神輿に乗り、乳母日傘で失敗もせず、重要な判断を苦しみながらする経験がない日本のエリートが、それとは真逆の環境で鍛えられている海外のエリートに勝てるわけがありません。人材の育成を、年代や等級などの層で一律に行う階層別教育や、営業マン教育やQC活動のための教育などで十分と考えていきた人事部門には、思いも寄らない世界が待っています。
等級制度のまったりとした評価基準で、課長から部長になり、そして役員に指名されるというこれまでの考え方とプロセスでは、実現できない世界が待っています。重要なことは、従来のなるべく課長クラスあたりまで平等で引っ張って、という基本姿勢を改めることです。それには、社員も会社も「大人の関係」になる必要があります。つまり人材像を明確にして、そのために何をすべきかを会社と社員双方が理解し、具体的な人材育成のためのアクションを行っていくのです。
実は国内にも「タレントマネジメント」のパッケージがあります。それなりに使われていて、一定の効果を得ている企業もあるようです。一方で海外からやってきたパッケージは、ある思想をもっているという特徴があります。実はこの特徴は、タレントマネジメントシステムだからというよりは、米国流のロジカルな人材育成の考え方からきています。次回はこのあたりをお話ししましょう。
1979年 慶応義塾大学法学部政治学科卒 大手機械メーカーの人事部、情報システム部、経営企画室のマネジャーなど、勤務20年を経て日本オラクルでERPコンサルタントを5年担当。その後ベリングポイント、NTTデータ経営研究所のコンサルタントや、タタコンサルタンシーサービシズジャパンの人事総務部長を経て現職。